2018年5月26日土曜日

賢策の変化(1)

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賢策の変化



 ウチの学校を簡潔(かんけつ)に言いあらわすとしたら『その他大勢のザコキャラ集団』ってところだろう。
 何もかもが平均的で、際立(きわだ)ったものなんてない。

 すべてが平凡なこの学校で、須藤賢策は浮いた存在だった。
 それもそのはずで、もともと賢策はウチの学校なんかよりもずっとハイレベルな逸材(いつざい)なんだ。
 県内一の進学校に合格できるだけの学力があったし、しかも中学のときはサッカー部のキャプテンを務めていて、スポーツ推薦で名門校にはいることだって可能だったんだ。

 それなのに賢策は、あえてレベルを大幅(おおはば)にさげてこの学校を選んだ。

 その理由は、
「レベルをさげてはいれば楽をして上位の成績をたもてるし、それに僕、本当はあまりサッカー好きじゃないんだよね、走ってばかりで疲れるし」
 ということらしい。
 ま、いかにも賢策の考えそうなことだけどな。

 賢策と初めて会ったのは1年のときだ。
 劇的な出会いとかがあったわけじゃなくて、ただ単にクラスが一緒だったんだ。

 賢策は1年のときから女子に人気があった。
 人気アイドルグループGATTI(ガッティ)のなかでいちばん人気のある五代修也に似てるんだからとうぜんだよな。
 おまけに頭脳明晰でサッカーがうまいときてるんだから、これでモテないわけがない。

 そのいっぽうで、賢策は男子のなかでは孤立していた。
 モテることに対するやっかみと、完璧すぎることからくる近寄りがたさのせいで友達をできにくくしてたんだ。

 こまったことに俺は、孤立してるやつとかを見ると、気になってつい声をかけたくなる性分(しょうぶん)なんだ。
 そんな感じで俺は、ひとりぼっちだった賢策に話しかけたんだ――すぐに後悔したけど。

 最初は賢策のナルシストぶりに唖然(あぜん)となった。
 それから、あまりにも軽薄な女性関係にあきれた。
 はっきり言って、友達選びに失敗したって思ったよ。

 でも、なんて言ったらいいのかな……理屈じゃないフィーリング的な部分で賢策とは妙に気が合ったんだ。
 たぶん、賢策のほうもおなじだと思う。
 いくつかの欠点に目をつむってやれば、すごくいいやつだしな。

 そんな感じで俺たちは気心(きごころ)が知れ合うようになり、気がつけばいつも一緒にいるあいだがらになってたんだ。



 それから毎日、俺たちは上機嫌を実践(じっせん)した。
 上機嫌の輪をクラスに広めたこともあって、継続するのは簡単だった。
 来る日も来る日も笑いすぎて、頬(ほお)が筋肉痛になったくらいだ。

 1週間もすると、意識しなくても上機嫌の状態でいられるようになった。
 モアイの得意な潜在意識の話じゃないけど、たぶん上機嫌の状態が潜在意識にインプットされて無意識でできるようになったんだと思う。
 いまでは上機嫌でいることが、俺たちにとってスタンダードな状態になっていた。


 俺たち3人は日を追うごとに人気者になっていった。
 ほかのクラスからも人がきたりして、仲間の数が右肩あがりに増えていく。

 それにともなって、俺たち3人はそれぞれが独立したユニットをつくるようなかたちになり、3人でいることがめっきりと少なくなった。

 おのおのがユニットの中心人物なのだから仕方(しかた)がないのかもしれない。
 だけど、3人で帰る機会もなくなってしまい、バーガーショップで寄り道して駄弁(だべ)る、というあの日課がうしなわれてしまったことに関しては一抹(いちまつ)のさびしさを感じている。

 暮咲さんは、あいかわらず休み時間になっても座席に着いたまま、ずっと顔をうつむかせている。
 俺のユニットには、ときどき女子のグループがはいってきて談笑に加わることがある。
 暮咲さんもこっちへきて一緒に楽しめばいいのに、と期待をこめて思ったりもするんだけど、でも暮咲さんはやっぱり暮咲さんのままで、ひとりぼっちの後ろ姿はとてもさびしげに見えた。

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